【特別版】安藤さん・佐々木さんインタビュー(令和3(2021)年2月)

都立産業技術高専 卒業生インタビュー:安藤さん・佐々木さん

【特別版】左:安藤さん・右:佐々木さん
東京都立工業高等専門学校 卒業
現在 株式会社ニコン 所属
令和3(2021)年2月オンラインインタビュー

今回は活躍した卒業生をご紹介する特別版として、現在は、株式会社ニコンのカスタムプロダクツ事業部に所属されている安藤さん、佐々木さんにオンラインインタビューにて高専での学びや現在のお仕事について伺いました。
安藤さんは、本校品川キャンパスの前身校である東京都立工業高等専門学校 機械工学科をご卒業され、令和2(2020)年の厚生労働大臣が表彰する「卓越した技能者(現代の名工)」を最年少で受賞され、他にも数々の受賞をされています。
佐々木さんは、東京都立工業高等専門学校 電子情報工学科をご卒業され、株式会社ニコンのニコン・ジュニアマイスター(特定の技術分野において業界トップレベルの⾼度かつ重要な技能・専⾨知識を有するものがニコン・マイスターに選出され、ニコン・ジュニアマイスターは、それになりうる能力や実績を持つ人物が選出される)に選出され、ご活躍されています。

最年少で「現代の名工」を受賞されたことについてお気持ちをお聞かせください。

安藤さん:正直なところ驚きです。産業界からすると私の歳では熟練工といわれる年齢ではなく、名工=年配の方というイメージなものでして。入社以来、先輩・後輩・お客様や研究開発機関など皆さまのお陰と感じています。しかしながら、今回の受賞はゴールではありませんのでその先を見据えた行動が私に求められていると感じています。

※「現代の名工」とは…「卓越した技能者」表彰制度に基づき、厚生労働大臣によって表彰された卓越した技能者の通称。「卓越した技能者(現代の名工)」表彰制度とは、卓越した技能者を表彰することにより、広く社会一般に技能尊重の気風を浸透させ、もって技能者の地位及び技能水準の向上を図るとともに、青少年がその適性に応じ、誇りと希望を持って技能労働者となり、その職業に精進する気運を高めることを目的としている。(出典:厚生労働省HP(「「卓越した技能者(現代の名工)」表彰制度のコーナー

 

受賞された大型望遠鏡の調整技術についてお聞かせください。

安藤さん:大型望遠鏡の多くは反射式となります。主鏡と呼ばれる大きな鏡により光を集めて、各所に所望の鏡を配置することで収差の少ない反射望遠鏡が製作されます。各基準となる面の機械軸と光軸の合わせ込みを秒単位、距離もマイクロメートル単位で行います。その際には多くの治工具と測定機を用いて作業工程を進ませます。鏡の保持についても歪ませて組んでは性能が発揮できません。ストレスなく組立を行う技量も問われます。ものづくりのスタートから性能検証など含め完成まで2年間を要します。
 

数々の受賞をされていますが、研究や技術向上のために取り組まれていることはありますか。

安藤さん:国家技能検定を高専生時代からコツコツと取り組んでいました。私の入社時は、久しぶりの高専生の入社でした。そのため、先輩との年齢や経験の差がかなり開いていたので、その差を埋めるため、社会人になっても国家技能検定を積極的に受験してきました。好きなことなので追いつけ追い越せの苦しさは全くありません。

<安藤さんの受賞歴>
2003年 茨城県職業能力開発協会 会長表彰【国家技能検定治工具仕上げ】 
2017年 株式会社ニコン マイスター【光学機器製造】
2017年 茨城県職業能力開発協会 会長表彰【国家技能検定多能技能士】 
2017年 茨城県技能者表彰ものづくりマイスター【光学機器製造】
2019年 茨城県卓越した技能者表彰【光学機器製造】
2020年 卓越した技能者厚生労働大臣表彰(現代の名工)【光学機械器具調整工】
 

都立工業高専を志望された理由は何ですか。

安藤さん:私が中学生の頃、世間はF1ブームでした。当時、航空高専(本校荒川キャンパスの前身)出身の後藤 治さんがF1へのエンジン供給チームのプロジェクトリーダーをされており、高専の存在を知りました。親から高専に合格したらレーシングカートの購入資金をプレゼントすると伝えられ、レースをするなら自身もメカについて勉強したいと考え、高専を目指しました。結果、入学は出来ましたが、親からのプレゼントはありませんでした…。

佐々木さん:進学先を高校受験ガイドで探している時に都立工業高専を知りました。工業系に行きたいとはっきりとした意思はありませんでしたが、調べていくうちに面白い学校だなと思い、興味本位で都立工業高専を目指し始めました。
 

都立工業高専時代に印象に残っている授業や学びはありますか。

安藤さん:機械実習の際に地域の町工場を持っている方が講師となって教えてくださったことが非常に思い出深いです。職人気質の方から旋盤の使い方等を学べたので、現場の生の声を聞きながら新鮮な技術を学べることはとても貴重な経験でした。

佐々木さん:ある日、指導教員だった先生から回路図を渡され、「これ作ってみて」と言われました。まだはんだ付けの実習や回路図を組む実習は全くやったことがなく、当時はインターネットもあまり普及していなく、スマートフォンもなかったので友人と困り果ててしまった思い出があります。先生に質問してはトライを繰り返し、何とか正常に回路を組めた時はかなりの達成感がありました。ご指導いただいた先生は、なんでもかんでも教える訳ではなく、まずは自力でやらせてみて、質問されたら教える、という実践型の教えをされる先生でした。この経験は現在の自分の働き方にも大きく影響しています。
 

高専で学ぶことのメリットは何ですか。

安藤さん:本科1年生からものづくりの基礎である実験・実習が開始され、本科2年生から工学基礎の習得へと展開されます。実験・実習を通した学びが多く、机上の授業をカバーする実験・実習のおかげで理解を深められるカリキュラムが組まれています。私の時代は、手書きのレポートと提出時の試問を乗り越え、部活に向かうという懐かしい思い出があります。文才や考察力を鍛えられますし、早期にこのような能力を身に着けられるのは高専ならではないかと思います。また5年制なので年齢が離れた先輩と同じ学校生活を送ることも社会に出る上でとても良い経験になりました。
 

都立工業高専時代にやり残したことはありますか。

佐々木さん:もっとまじめに勉強しておくべきだったと感じますね。高専時代は一生懸命勉強していたつもりでしたが、社会に出てみると自分が持っている知識で何かしようとした時に全然足りていないことに気づきました。なんとなくしか理解しておらず、知識を使える状態まで修得できていなかったという反省があります。社会人になってからも高専時代の教科書を引っ張り出して勉強し直すことがよくあります。振り返れば、時間のある学生時代に先生の話をよく聞き、しっかりと知識を修得しておけばよかったと感じています。
 

現在、どのようなお仕事をされていますか。

佐々木さん:クリーンルームでものづくりをしています。現在は高出力レーザーの製作に携わっています。光学系の組み立てや調整がメインですが、作るだけでなくデータの解析や不具合の調査なども行います。工場勤務ですが、皆さんが想像している工場勤務とは全く違うと思います。図面や様々な書類を見ながら、皆で話し合って一つのものを作り上げていく作業をしています。

佐々木さん作業中の様子

電子基板のパーツ実装と確認作業の様子

安藤さん:特殊かつ大型望遠鏡の製造にかかわるリソース(人・材料・設備・方法)の確保と調整、新規製品制作時の工程立案と生産設備導入検討及び実作業等、生産保全計画の立案と実行や製造不具合への復旧対応を担当しています。入社当時は、他の人がやりたがらない業務に興味があり、上司に折衝した記憶があります。単純に目立ちたかったというのもありますが、職場には年齢の離れた大先輩ばかりで、先輩がやりたがらない仕事をやれば新しい仕事ができるのかなと考え、積極的に取り組んでいました。仕事の内容は変化していますが、入社から現在まで継続して新規品のものづくりに携わっています。

安藤さん作業中の様子

左:平面鏡と基準面の平行出し作業の様子 右:左の作業で用いている測定機(6Dオートコリメータ)の接眼映像
 

安藤さん、やはり時間をかけて作り上げた新規品が世に出ていくときには感じるものがありますか。

安藤さん:ありますね。衛星関係ですと、ニュースでロケットが宇宙へ到達したという情報が入った時には我々が作った部品も一緒に宇宙へ飛び立っているのでとても嬉しいです。世界的な大きな成功に一部でも携われたことに誇りに感じます。
 

産技高専での学びや経験は現在のお仕事に活かされていますか。

安藤さん:高専で実践的なものづくりの基礎と応用を早期に学習できたことがベースとなり、現在のデータから考察する力が構築されたと感じています。私の業務は事業所だけでなく、国立天文台、産業技術総合研究所、共同研究先などに出向き、装置の状況を鑑みて得られたデータからベストな調整を求められるケースが多々あり、高専で幅が広い工学分野を学べたことが非常に役立っています。また、国家技能検定受験の際も高専での経験が非常に役立っていると感じます。

国立天文台ハワイ観測所での作業の様子

左:国立天文台ハワイ観測所の山頂ドーム内にて高所作業車に搭乗し、観測機器FOCAS(微光天体分光撮像装置)コリメータユニットのインストール作業をしている様子

中央:観測機器FOCAS(微光天体分光撮像装置)と望遠鏡

右:観測機器FOCAS(微光天体分光撮像装置)本体
 

佐々木さん:データが取れてもデータを活用するツールの使い方がわからなければ何もできません。そういった点では、高専での学びや経験は非常に活かされています。既に何か技術の入り口を知っているという点でかなりの差があると思います。
 

働く上で大切にされていることはありますか。

安藤さん:仕事の種類は多種多様多面的で、やはり面白くない仕事もありますよね。そんな時にどう面白くするかを意識するようにしています。また、昨今、技術進歩は日々躍進しており、用いる機器の分解能が向上すれば、エンジニアの手先の調整においてもアウトプットは向上します。セオリー通りに機器を扱うのではなく、業務を進める上での背景と環境側面の把握、創意工夫が大切だと考えています。
 
佐々木さん:「やってみませんか?」と聞かれたことは断らないようにしています。難しい仕事や新しい事に対しては不安もありますが、まずはやってみるという姿勢を大切にしています。

 

佐々木さん、その姿勢は、先輩から学ばれた姿勢なのでしょうか。

佐々木さん:入社した当時の先輩がとても前向きな方が多く、そんな環境で育てていただいたので、その姿勢が体に染みついていますね。先輩方の影響はとても大きかったです。

 

今後のキャリア展望や夢を教えてください。

佐々木さん:技能と技術の両面から貢献できるようになりたいです。私は実際にものづくりに携わる技能部門におり、技術部門が別にあります。作業者と技術者では、得意なところはそれぞれ異なります。私は、両者の橋渡しができるような人材を目指して頑張っていきます。

安藤さん:私の仕事は「Only One」の尖ったアイテムを造ることで、多品種少量生産の光学製品を造り込む仕事をしてきました。引き続き、光学分野での技術発展への寄与を目指していきたいと思います。また、昨今、仕事の進め方で悩んでいる方も多く見受けられます。互いに仕事を進める上での配慮と協業の大切さ、巻き込み力などビジネススキルについても伝えていけるエンジニアになりたいと考えています。将来は、初めて天体望遠鏡から見た夜空の感動を思い描けるよう、光学分野に興味を持ってもらえるような活動もしていきたいと考えています。
 

安藤さんも幼少時代に天体望遠鏡を覗いて感動した経験があるのですか。

安藤さん:幼少時代や高専時代は望遠鏡を覗いたことはありませんでしたが、現在の職に就き、初めて天体望遠鏡を覗きました。肉眼では小さく見える恒星・惑星なども天体望遠鏡を介して観察するとオレンジ色だったり、青白かったり、様々な色が見えます。その点の感動は大きかったですね。一方で残念だったこともありました。地上から見える点の恒星が天体望遠鏡を覗くと大きく見えるのかと期待していましたが、眼視では点は点のままで変わらなかったことがとても残念でした。

 

安藤さん、今後は、その残念だった部分を自身の力で改良していきたいと感じますか。

安藤さん:そうですね。より高性能なものづくりができるよう引き続き努力していきたいです。
 

受検生や在校生に向けてメッセージをお願いします。

安藤さん:将来、優秀なエンジニアになることを目指して高専の道へ進むことを決意し、日々研鑽を重ねていることと思います。高専のカリキュラムは、工学の基礎を丁寧に伝える文化が根付いていると感じます。今からなりたい自分を想像し研鑽を重ねれば、産業の発展に積極的に寄与できるエンジニアに近づけると思います。在校生の皆さんは、専門性の高い勉強や課題でくじけそうな時もあるかもしれませんが、高専を目指した時の新鮮な気持ちを忘れず、将来の自分のためにまずは少し踏ん張って学び続けてみてください。
 
佐々木さん:将来使うから勉強するのではなく、勉強して身につけたものを使って仕事をしていくものです。身につけた知識や技能の多さはつまり問題に直面した時の選択肢の多さです。目の前に転がっている知識をとりあえずポケットにしまっておく、ぐらいの気持ちでいいので学び続けることを大切に頑張ってほしいです。

 

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安藤さん「なりたい自分を探せる時間と場所があるところ」
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佐々木さん「おもちゃ箱」
      好きなもの、そうでもないもの、楽しい思い出、成長させてくれたもの、全部まとめて入っています。






 

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